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STEP LIGHTLY『Negative Killers』

2015年4月29日(水)iTunesにて配信開始
1曲:150円/全5曲パックEP販売:600円
THRASH ON LIFE RECORDS

収録曲
1. Get Away (1:10)
2. Negative Killers (2:19)
3. Living Corpse (1:37)
4. Raise Our Voices (2:08)
5. Waiting Room (FUGAZI) (2:41)

iTunesでの購入はコチラから
https://itunes.apple.com/jp/album/negative-killers-ep/id987771900

去年7月に発売されて以来、各地のレコードショップで売り切れてしまっていた、STEP LIGHTLYの7インチシングル『Negative Killers』が、本日4/29(水)にiTunesから配信される事になりました。

それを記念して、7インチに封入されていたライナーノーツに更に全曲レビューを加筆した『拡大版』を公開します。

まだ聴いてない人は勿論、既に聴いてるって人も、聴きながら読んで貰えたら嬉しいです。

5/16(土)には新代田FEVERで我々ATATA主催の一年越しのレコ発記念ライブも行われます。

色々な媒体を使ってしつこいくらいに言ってますが、このシングルは俺にとって2014年のベストの一枚なんです。

とにかく聴いて欲しい。そしてこのSTEP LIGHTLYという類稀なバンドにもっと沢山の人が触れて欲しい。ライナーを書かせて貰った理由も、ここまで推薦する理由もそれだけです。

パソコンからでもスマートフォンからでも購入出来るので是非。

よろしくお願いします。


『Negative Killers』拡大版ライナーノーツ

さて、何から話そう。本来、パンクやハードコアにおける最大の賛美は『ヤバい!カッケー!』だけでいいと思うんですが、STEP LIGHTLYの今回のニューシングル『Negative Killers』に関してはどうもそれがピンと来ない。『必聴!』の一言で片付けてもいいんだけど、今回の音源に関してはステレオタイプな『ハードコア/スラッシュ』の枠の中だけで語っては勿体無い気がする。

何やら聴けば聴く程奥深くて、何処がどう奥深いのかを言葉で説明する必要があるなと。今回の音源に脈々と流れる『レゲエ/ダブ』の系譜。これを紐解く必要がある。

という事で手を挙げました。初めまして、ATATAというバンドでボーカルをやっております奈部川光義と申します。

ライトリーのボーカル、匠君とは同じ歳でありまして、彼が住む福岡と俺が暮らす横浜とは距離の差はあれど、同じ歳だけあって、基本的に聴いて来た音楽が似てるんですね。酷似と言ってもいいくらい。

お互い思春期に日本のパンクバンドにやられて、そのルーツを追って行ったらThe CLASHに行き着いて、彼等からレゲエやダブの良さを教わり、今もパンクとそれらを同一線上で聴いてる。とまぁそんな世代。本人にも確認を取りましたが、STEP LIGHTLY(以下ライトリー)というバンド名自体がクラッシュの『Stay Free』という曲の歌詞から引用されています。もっと言うと、クラッシュというバンド名がCULTUREというレゲエバンドの『Two Sevens Clash』というアルバムから取られたという説があるくらいで。

では何故レゲエ/ダブとパンクは相性がいいのか?それには一旦ロンドンパンクの創成期に遡る必要があります。

その頃のロンドンにはDON LETTSというDJ(後にクラッシュのメンバーとBADというバンドを結成する)がいまして、彼がパンクス相手にレゲエ/ダブを流し始めます。イギリスはジャマイカからの移民が多い国で、白人でも労働者階級に生まれた比較的貧しい層も沢山いて、音楽としては勿論、彼等がレゲエの持つ、貧困や制圧、差別に対する反発などの強いメッセージ性に惹かれたのはある種必然でした。まずここに大きな根拠がある。

やがてパンクバンド達が自らの楽曲にレゲエ/ダブを取り入れたのも自然な流れだったと言えます。レゲエを取り入れたバンド名を羅列しただけでも前出のThe CLASH、STIFF LITTLE FINGERSTHE POLICETHE SLITSTHE RUTSALTERNATIVE TVなど沢山のバンドがいました。パンクバンドではないけれど、SPECIALSなどの2TONE勢も当然この系譜の上にあります。レゲエとパンクの親密さを証拠づけるエピソードとして、BOB MARLEYの『Punky Reggae Party』という曲の中でこう歌われています。『ほら ウェイラーズだって来る ダムドも ジャムも クラッシュも メイタルズだって来る ドクター・フィールグッドもだ』。

また、それよりも以前に、イギリスではジャマイカ移民の二世達による独自のレゲエ/ダブも発展していて、有名なバンドではASWADSTEEL PULSE、プロデューサーでは前出のTHE SLITSの『Cut』に関わったDENNIS BOVELL (BLACKBEARD)などが活躍していました。ジャマイカのオリジナルのレゲエ/ダブと比べて、その違いを一言で説明すると『音の硬度』に尽きると思います。重くて硬い。オリジナルに漂う、あの緩い空気感がない。『冷たい重低音』。これに誘発されてか、ニューウェーブ期になると、白人であるADRIAN SHERWOODというプロデューサーがON-Uというレーベルを始めます。ON-UからはTHE SLITSのARI UP (R.I.P)を含む、イギリスのレゲエ/ダブのオールスターが揃ったNEW AGE STEPPERSのアルバムなどがリリースされました。ちなみにSEX PISTOLSが解散した後、ボーカルのJOHN LYDONがダブの影響によって始めたバンドがPUBLIC IMAGE LTDだったりします。

匠君のレコード棚にはこれらのレコードが所狭しと並んでる。これが最初のキーワード。今作でライトリーがインスパイアされたであろう『冷たいダブ感』は完全にイギリスの『パンク以降のダブ』によるものだと思います。

ダブについても少し説明しましょうか。ざっくり言うと『レゲエにおけるリミックスの手法』です。楽曲を一旦バラバラにして、断片を組み直して、新たに音響処理をして別の表情を持った曲にする。その際、特に重要視されるのはドラムとベース音で、ディレイなどの空間系エフェクターが大胆に加えられます。

今作でも随所で聴かれる、スコーンと抜けるスネア、残響音と共にリフレインするギターの裏打ちのカッティングやボーカル、そして効果音。この音の感触こそが所謂『ダブ』です。

おっと、今作を解説する上で一番重要なバンドを忘れてました。BAD BRAINSです。これについては説明不要ですかね。世界初の黒人4人組によるアメリカのハードコア/レゲエバンドです。このバンドの功績は『ハードコアのフィジカルさでレゲエを演奏した』事だと思います。元々ミュージシャンシップに溢れたバンドなので、後により様々なジャンルを取り入れたミクスチャーバンドに変化しますが、今でも初期のハードコア/レゲエバンドとしての彼等が好きだという人は多いと思います。

ここで二つ目のキーワードです。初期のBAD BRAINSはハードコアとレゲエを共存させました。別の言い方をすると、曲によって演奏し分けた。では今作のライトリーはどうかというと、レゲエとハードコアを『一曲の中で共存』させています。『融合』ではなく、一曲の中で見事に共存させた。共存させる事でライトリーというバンドをミクスチャーバンドでなく、ハードコアバンドのままで存在させている。前作のアルバム『Rise Again』でも既にこの手法は取り入れられていましたが、今作ではそれを更に特化させて無理なく成立させています。正直、これは実に凄い事で、発明に近いんじゃないかとも思っています。

本作のラストを締め括る5曲目にはライトリーの音源ではお馴染みとなったカバーが納められています。前作ではSNUFFの『Too Late』がピックアップされましたが、今回では遂に禁じ手とも言えるFUGAZIの『Waiting Room』をカバーしています。この曲が実に曰く付きの曲で、FUGAZIというだけで、ハードコアが好きな人間からすれば敷居が高いというか、カバーしたくてもなかなか手が出せない大ネタだったりするんですが、その大ネタを臆する事なく、これまたレゲエ/ダブの手法で大胆にカバーするこの無邪気さ。ただ、違和感なく聴けてしまうのは、この曲が元々持っていたダウンビートとレゲエ/ダブのリズムの親和性だったりすると思います。ライトリーというバンドはカバーに必要な拡大解釈の仕方が本当に上手い。

と、この様に今作の『Negative Killers』は一聴すればハードコア/スラッシュの爽快さに溢れた痛快なシングルなんですが、その音楽的素養を紐解いてみたくて、バンドのバイオグラフィーなどには一切触れずに長々と筆を進めてみました(汗)。文字数もそろそろ限られて来たので、最後に三つ目のキーワードとして、今作の別の側面、匠君のボーカリゼーションにおける『日本のパンク』の系譜について解説したいと思います。

俺達がまだ十代だった頃、当然今みたいにインターネットもなかったので、日本のインディーズバンドは独自にパンクを解釈して演奏していました。今にして思えばそれはガラパゴス化してたとも言えるし、感覚で説明すると、本場と聴き比べて、日本のパンクは『ちょっとヘン』だった訳です。丁度、途上国のバンドの曲を聴いた時のあの感じ。俺も匠君もそれらをずっと聴いて育ちました。焼き直してそのまま表現しようと思えば幾らでも出来た筈。しかしこれは諸刃の剣で、表現方法が1ミリでもズレると途端にカッコ悪くなってしまう。今回の匠君のボーカリゼーションはそれをギリギリに成立させています。聴こえて来るのはTHE STREET SLIDERSの気怠い節回しであったり、THE STALINの吐き捨て方であったり、THE STAR CLUBの言い回しのクールさであったり、ジャパニーズハードコアで言えばLIP CREAMGAUZEの言葉の畳み掛け方であると思います。このボーカリゼーションも今作の大きな聞き所の一つだなと。

追記すれば、かつて『めんたいロック』と呼ばれた、福岡のバンド達の影響も色濃く窺えます。サンハウスTHE ROOSTERS、何処かロックンロールやブルースのテイストを感じるバンド。こればっかりはライトリーが育った福岡ならではといったところでしょうか。

先に挙げたキーワードを思い出してみましょう。『パンク以降のダブ』、『ハードコアとレゲエの共存』。それに『日本のパンクの系譜』。この三つを柱に置いて改めて聴くと、このバンドの面白さ、この音源に納められた5曲の斬新さに気付くと思います。

STEP LIGHTLYというバンドは実に奥深い。その奥深さを理屈抜きにスラッシュ/ハードコアに乗せて疾走させる。匠君は言います。『パンクやハードコアは若い子のモンやから』。このシングルが若い子にとってパンクの教科書になることを願って最後にもう一言だけ。

ライトリーヤバい!チョーカッケー!!!

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『Negative Killers』全曲レビュー

1.Get Away

Sham 69のシングルを思わせる、時計の針の音のSEから始まる1曲目。実際、ロンドンパンクのバンドのシングルにはこういったSEがよく使われていました。これが時限爆弾の音にも似た、『何かヤバい事が始まりそうな緊張感』を生み出していると思います。その緊張感の余韻が消えない内に颯爽と終わる爽快さ。無駄を一切排除した、『パンクのシングルの1曲目以外は考えられない曲』。

2.Negative Killers

2曲目にしてタイトル曲。今日までライトリーが作り上げて来た、『ハードコア/ダブ』のスタイルを総括して聴かせてくれます。もし誰かにSTEP LIGHTLYってどんなバンド?と聞かれたら、個人的にはこの曲を薦めれば納得して貰えるかなと思います。また、『白い闇に包まれたこの世界で』から始まる歌詞等、日本語ラップからの影響(ライトリーはファーストアルバムでキミドリの『白いヤミの中』をカバーしてます)も如実に表現されていて、試行錯誤の末に辿り着いた、彼等の音楽キャリアのメドレーの様でもあります。

3.Living Corpse

今作で一番の疾走感と、パンク/ハードコアに必要な焦燥感を併せ持った曲。後半に登場するダブパートの雰囲気からも分かる様に、ライトリーの曲の特性である、『冷たくて硬い質感』が感じられると思います。線は太くないけど決して緩くはない。曲に流れる空気が常に張り詰めている。アメリカよりも完全にイギリス。今作を『イギリスのレゲエ/ダブ』の系譜に絡めて解説しようと思ったきっかけの曲でもあります。

4.Raise Our Voices

僭越ながら俺自身の『イチオシ』の曲です。全編に渡るシンガロング、サビ後半の畳み掛けにつれて血管が切れそうになる匠君のシャウト等、最高としか言い様がありません。それだけです。早くステージの上からマイクを向けられたいです。ファン目線でスイマセン(笑)。

5.Waiting Room (FUGAZI)

ラストを飾る、FUGAZIの初期の名曲のカバーです。元々、FUGAZI自体がイギリスのGANG OF FOURに影響されたバンドだという説があります。そのGANG OF FOURがファンク等のブラックミュージックに影響されていました。つまり、ライトリーがこのカバーでアレンジした、レゲエ/ダブとの親和性は元来高かったと考えます。レゲエのビートを倍の速度にしたものがジャングルであった様に、この曲でも随所にみられる、BPMの遅いオフビートと、2ビートを用いたオンビートが行ったり来たりするこの展開こそが、ライトリーがやりたかった『ハードコア以降のレゲエ解釈』なのかなと、発売後約一年が経った今作を聴いて、改めてそう思います。

以上、今回のiTunesの配信に合わせて、以前書かせて貰ったライナーノーツに加筆させて貰いました。

レコードに封入されていたこのライナーを公開する事で、一人でも多くの人が、このSTEP LIGHTLYというバンドに興味を持ってくれたら嬉しいです。

2015年4月28日
奈部川光義 (ATATA)