Fever-21
長く降り続いてた雨がさっき止んだ。

何から書こう。

言葉は時に、想いを陳腐にさせる。

普段は饒舌なくせに大事な時にこそ口籠ってしまう癖がある。

何から語ろう。

明日からツアーが始まる。

やっと本当のスタートラインに立てる。

このバンドを組んで、急いだけど2年掛かった。

ホントはもっと早く立ちたかった。

カレンダーと時計をいつも睨んでいた。

若者に比べたら俺達には許された時間は余りに少ない。

プランを立てた。

通常のバンドが3年掛かる事を1年でやれないか?

曲が出来る度に配信しよう。

運良く多くの人達が俺達の音楽に触れてくれた。

携帯電話で。パソコンで。そしてその足を自然とライブハウスに向かわせてくれた。

その反面、想像以上の影も忍び寄って来た。

それぞれが背負う、過去のバンドの亡霊。

今を生きようとする俺達が進めば進む程に、その影は誰かのココロを揺さぶり、時には侮蔑の表現として言葉になり、吐き捨てられた。

痛かった。

何も感じないと思っていた?

俺は早くひっくり返したかった。オセロみたいに。

去年の年末にその禁断を一つ破った。

誰かにとっての禁断。なんとなくの空気に遮断されていたタブーと呼ばれるモノ。

破ってみたら、そこにいた全員が笑ってた。

そして年が明けた。

圧倒的なアルバムになるのは分かっていた。

これで全部ひっくり返せる。

その一点に全ての望みを繋いだ。

アルバムが出来た。

これが最後になるかも知れない。

頭の片隅にはその言葉がいつも置いてある。

だからこそ楽しもうと思えた。

6人とアソウ君だけで集まって録音を楽しんだ。

楽しんで録音したらいつの間にか曲に翼が生えていた。

生まれたての翼を空に放ったら、颯爽と飛び始めた。

そして俺達の元に帰る度に新しい同志を連れて来てくれた。

まだまだ出会うべく人や仲間がいる。

5月4日。

旅立ちの朝に響く鶏の声。

コケコッコー。

朝だ。朝が始まる。あんなに嫌っていた朝が。

朝日を待つのがこんなに待ち遠しいなんて思ってもなかった。

今日までの簡単なストーリー。

ありがとう。

それだけ。

俺達の背中を押してくれ、時に叱咤してくれる貴方に。

音楽はまるで魔法の様だ。

俺も貴方も引き寄せられてここにいる。

これを魔法と呼ばずに何と呼ぼう。

明日、その幕が上がる。

見えなかった魔法が姿形となってついに現れる。

俺達は祝辞をもって迎えられるだろうか。

否定に否定を重ねた俺は、誰かにとって、肯定し得る価値を提示出来ただろうか。

そろそろ言葉を遮ろう。

言葉は時に、想いを陳腐にさせる。

最後に。

明日、俺達から貴方に手渡されるアルバムにはスペシャルサンクスの欄がない。

…and youと書かれたクレジットの空虚。

名前が乗せられるべきは関係者じゃない。

観客ゼロの前でライブをやった事がある?

貴方がいたからここまで来れた。

旅の始まりに寄せ書きを書いたよ。

大切にしてくれたら嬉しい。

明日、明日、明日が来る。

片手に音楽を、片手に花束を持ったパレードが始まるんだ。

紙吹雪が舞って、ファンファーレが鳴り響く。

沿道で見守る人達も笑っててくれてたらいいな。

笑い声を風に乗せて、幌を立て伝えよう。

 

明日、高円寺で待ってる。